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  • 執筆者の写真情報調査部・エンカレ東大支部

経済学の「人的資本」概念で考えるキャリア構築

更新日:1月19日

要約

 

 人的資本とは、能力やスキルを意味します。投資すれば伸びるのが特徴で、近年、経済産業省も注目しています。


 ファースト・キャリアは人的資本投資として考えるとよいです。


人的資本とは

 (1) 1960年代に有名に


 人的資本(human capital)という概念が経済学者の中で知れ渡ったのは、1960年代でした。Schultz(1961)の"Investment in Human Capital"がその鏑矢です。研究の動機は、伝統的な説明要因(土地、労働、資本)で説明できる経済成長を上回る残りの部分を、なんとか説明したいというものでした。


 (2) 投資すれば伸びる


 人的資本概念の特徴は「投資すれば伸びる」と定義されている点です。人的資本に投資すると、何らかの形で人的資本が身につきます(=体化)。体化した人的資本から、年収や健康、主観的な幸福といった便益が得られます。


【人的資本投資】

・親による子育て

・学校教育、大学教育

・非正規教育

・職場での訓練

・健康管理

・移住


【体化された人的資本】

・知識

・技術

・能力

・特質


【便益】

・年収

・職位

・健康

・主観的な幸福


経済産業省が推し進める人的資本経営

 経済産業省は2017年の「伊藤レポート2.0」より人的資本に関心を寄せています。そこで提示された見方は、施設や設備といった有形資産ではなく、人的資本や知的資本などの無形資産の充実が競争力の源泉になっている傾向の存在でした。下のグラフは、アメリカの株価指数S&P500に占める無形資産の比率です。

※tangible assets=有形固定資産、intangible assets=無形資産

(出典:Ocean Tomo


 これを踏まえて、2020年に発表された「人材版伊藤レポート」では


・「人をコストと捉える人的資源」から「人を投資対象と捉える人的資本」へ


が第一に指摘されました。2022年の「人材版伊藤レポート2.0」では人的資本経営がタイトルにも記載され、最高人事責任者CHROの設置、企業理念の定義、多様な学生の採用などが施策として掲げられています。


キャリアを考えるための「人的資本」概念

 ここからは、キャリアを考えるために人的資本の概念を使ってみましょう。


 (1)人的資本が大きいと高い年収になる


 人的資本の大きい労働者の年収は、高くなります。


 なぜなら、人的資本が大きい、つまり、能力のある労働者の市場価値は、高いからです。能力の高い労働者は希少性が高く、高付加価値な労働に対する企業の支払い意思額も高いです。その結果、需給が一致する年収が高くなります。


 (2)一般的人的資本と特殊的人的資本


 自分の市場評価を高めるには、人的資本の中でも一般的人的資本を高めなくてはなりません。


 人的資本は、一般的人的資本(general human capital)と企業特殊的人的資本(firm specific human capital)に分けられます。一般的人的資本とは、どの企業でも役に立つ能力・スキルです。企業特殊的人的資本とは、その企業でしか役に立たない能力・スキルです。


 複数の企業がいる市場で評価されるのは、どの企業でも通用する一般的人的資本になります。だから、市場価値を高めたければ、一般的人的資本に投資しなければなりません。


 ところで、人的資本への投資コストは誰が負担するのが、社会的に望ましいのでしょうか。ゲイリー・ベッカーによれば、本人は一般的人的資本への投資コストを負担し、企業が企業特殊的人的資本への投資コストを負担するのが、社会厚生的に望ましいです。ベッカーは経済学のフレームワークを、経済から人間行動にまで拡張したことで有名なノーベル経済学受賞者です。(参考: 麻生(2004)「人的資本投資における政府の役割」


 (3)転職と企業特殊的人的資本


 転職の要因として「市場価値が高まっていないこと」が挙げれられる場合があります。例えば「社内業務を回すスキルは身についたが、他の環境でも使える能力が伸びておらず、成長実感がない」という考えです。これはその企業でしか通用しない企業特殊的人的資本だけが成長し、どの企業でも通用する一般的人的資本が成長していない場合です。


 ジョブローテーションでジェネラリスト的な育成をする日系企業や官庁では、どの会社でも通用する専門性は身につきにくいです。特に、組織内の調整や前例踏襲で自律的な働き方ができないと、この点について不満を持つかもしれません。


 コンサルティング・ファームの人気は、一つには若いうちから問題解決能力という一般的人的資本に投資してくれるので、市場価値が高まるということを学生が感じとっているからでもあります。


 (4)人的資本減耗


 人的資本は、投資しないと年々減少していきます。なぜなら、使わない能力やスキルは劣化し、老化で知的能力や身体能力は衰え、ライフ・ステージや時代の変化で陳腐化していくからです。


 例えば、東大生は、大学受験期には5教科7科目について日本トップレベルとなるまで人的資本を蓄積します。けれども、大学入学後、徐々に、使わなくなった大学受験用ペーパーテスト能力は劣化します。大学3年生から家庭教師や塾講師をやろうと思っても、だいぶ忘れてしまっており、別途努力が必要です。また、そもそも大学に入学すると、高校レベルの学力成績の価値は急落します。入学して3ヶ月もすると「お前、まだ共通テストの点数の話をしてるの? ダサいぞ」となります。こうして、東大生は知らず知らずのうちに人的資本減耗を経験しているのです。


 (5)学歴差別と情報の非対称性


 就活において学歴差別があるのは、企業側が学生の人的資本について無知であるという情報の非対称性に起因します。なぜなら、企業は学生の能力を直接知ることができないので、キャッチアップする力のシグナルとして学歴を利用しようとするからです。


 企業側は、エントリーシート、WEBテスト、面接で学生の能力を測ろうとします。しかし、学生は、ESに嘘をついて学生時代の話を盛り、WEBテストは解答集を手に入れ友人と一緒に解き、面接では入念な準備で自分の見せ方を工夫します。コンサルでも「地頭を測るためのケース問題なのに、対策方法が普及しすぎた結果、本来の能力が見えにくくなっている」とも言われています。


 企業の適正な能力を知りたいという利害と、学生の実力以上の評価を得たいという利害は、対立しています。


 そこで、企業は、能力の代理変数として、虚飾が許されず厳正に実施されている大学入学時の学力水準を使うのです。


 (6)人的資本投資


 人的資本投資をする判断基準は、


「投資リターン > 投資コスト ※割引現在価値での評価」


です。


 「現状維持」での生活満足度を基準に考えます。


 投資コストは、現状維持と比較して、自己研鑽の努力、プライベートの時間減少によって下落する生活満足度の総量です。


 投資リターンは、現状維持と比較して、目標実現によって上昇する生活満足度の総量です。


 この投資リターンが投資コストを上回る場合は、自己投資すべきです。例えば、次の場合です。



 ただし、意思決定には時間割引を考慮しなければいけません。人は普通、意志薄弱で近視眼的に行動します。つまり、現在や目先のことを重視し、遠い未来を軽視します。これは人間の本性であって無視すべき性質ではありません。そこで、未来のコストやリターンは割り引いて考えます。


 最終的には、割引現在価値で「投資リターン > 投資コスト」になる場合に、自己投資をすべきです。


 (7)ファースト・キャリアは人的資本投資

 一生同じ会社にいる人が少なくなった今、ファースト・キャリアには人的資本投資の側面があります。


 人的資本投資という面では、内面磨きと外見磨きが大事です。つまり、スキルアップと評価される経歴書作りです。第一に、転職しても大丈夫な能力を身につけられる環境を選びましょう。第二に、転職する際にも再度発生する情報の非対称性に対応するために、能力の高さのシグナルになるネームバリューのある環境を選びましょう。


世帯所得の実態

 (1)年収の中央値は440万円

 ここで世帯所得金額の分布表を見ましょう。世帯年収とは、独り身の場合はその人、夫婦の場合はその合計の分布表です。中央値が440万円ですので、真ん中の順位の世帯所得は440万円です。


 (2)世帯所得1000万円、1500万円、2000万円の希少性

 世帯所得が1000万円を超える世帯は上位12.7%、1500万円を超える世帯は上位3.7%、2000万円を超える世帯は上位1.4%です。


 (3)真の高所得者

 なお、年収の分布の特徴は、右側の裾野が極めて遠くまで伸びていることです。高所得者については「上には上がいる」という構造がずっと続いていくことが知られています。正規分布とは異なった分布になります。


 なぜこのような分布形状になるのでしょうか? その一因は資本所得の存在です。所得を分解すると


所得

=労働所得 + 資本所得

=労働時間×時給 + 保有資産×利回り + 保有資産の値上がり


となります。残念なことに、労働所得には、実質的な上限があります。なぜなら、労働時間には、生物学的、物理的限界があるからです。一方で、保有資産は理論上は無尽蔵に蓄積することができます。資本家は、労働者と異なるゲームをしていますので、右裾が長い所得分布になるのです。


結論

 キャリア全体を通じて、人的資本を蓄積していきましょう。そのためにも、ファースト・キャリアは、一般的人的資本を伸ばせる会社に行くのが望ましいです。また、ネームバリューのある環境に行けば、転職する際にも有利です。ただし、真の高所得者になるには、労働者側ではなく、資本家側に行かなければなりません。


さいごに

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執筆者と免責事項

書き手=東大支部24卒メンター

※記事は執筆者の個人的見解であり、エンカレの公式見解を示すものではありません。

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