要約
コンサルは今東大生に人気です。しかし、東大生に人気だからといって安泰ではありません。
1989年の東大生就職先ランキング20位のうち9行が銀行でした。その中で、現在も名前が変わっていない銀行はゼロです。銀行はバブル崩壊に伴う不良債権処理のために、大きな業界再編を余儀なくされました。
1927年の東大法学部就職先ランキングを見ると、1位が内務省です。戦前は内務省から派遣された官僚が府県知事を務め、内務省は「官庁の中の官庁」と言われていました。しかし、第二次世界大戦に敗戦し、内務省は解体されています。
今は東大生からコンサルが大人気
いま、東大生から熱い視線が注がれているのが、コンサルティング業界です。2023年卒のデータを確認しましょう。
(1) 2023年卒東大生の就職先ランキング
2023年2月に出されたデータによると、2022年、東大生が就職した企業ランキングは
1位:アクセンチュア(53)
2位:ソニーグループ(50)
3位:楽天グループ(44)
4位:マッキンゼー(40)
6位:日立製作所(39)
7位:ソフトバンク(34)、野村総合研究所(34)
9位:ヤフー(26)、富士通(26)
(出典:ダイヤモンド・オンライン)
になっています。20位まで見ると、アクセンチュア、マッキンゼー、野村総合研究所、PwCといったコンサル4社がランクインしており、コンサルが人気になっています。
(2) 2023年卒東大生の注目企業ランキング
コンサル人気企業口コミサイト・OpenWorkが発表した東大生から注目されている企業ランキングが
1位:野村総合研究所
2位:アクセンチュア
3位:ソニーグループ
4位:PwCコンサルティング
6位:デロイト トーマツ コンサルティング、マッキンゼー
7位:三菱商事
9位:日立製作所
10位:富士フィルム
(出典:働きがい研究所 by OpenWork)
になります。20位まで見ると、コンサル11社がランクインしており、コンサルは人気といえます。
(3)東大生に人気な業界ってどうなのよ?
けれども、東大生に人気な業界=望ましい業界の等式は、成り立つのでしょうか?
東大生には仕事のできる人も多いですから、業界内部の競争は激化しています。それに、保守的な東大生から選ばれているということは、業界としては成熟期を迎えており、あとは衰退期に差し掛かる直前かもしれません。また、外部環境のどうしようもない変化で、一気に業界がピンチになる可能性もあります。
過去東大生に人気だった就職先とその後
歴史から「東大生に人気な業界=望ましい業界」の反例を探しましょう。
(1) 1989年の東大生に人気の銀行
1989年の東大生が多い就職先は
1位:NTT(57)
2位:第一勧業銀行(37)
3位:日本興業銀行(36)
4位:三菱銀行、日本長期信用銀行(34)
6位:通商産業省(32)
7位:三和銀行(31)
8位:リクルート(30)
9位:NHK(27)
10位:JR東日本、東京海上火災保険、日本生命保険(25)
(出典:AERA)
になります。20位まで見ると銀行9社で、銀行が圧倒的に人気です。
(2)銀行とバブル崩壊
けれども、9行のうち、当時と同じ名称で営業を続ける銀行は、2023年現在、1行もありません。
・第一勧業銀行(2022年のみずほ銀行)
・日本興業銀行(2022年のみずほ銀行)
・三菱銀行(2022年の三菱UFJ銀行)
・日本長期信用銀行(2022年の新生銀行)
・三和銀行(2022年の三菱UFJ銀行)
・富士銀行(2022年のみずほ銀行)
・三井銀行(2022年の三井住友銀行)
・住友銀行(2022年の三井住友銀行)
・東京銀行(2022年の三菱UFJ銀行)
1989年といえばバブル景気です。銀行による積極的な貸し出し、土地や株式への投機、バブル崩壊、企業のバランスシート悪化、景気低迷、そして大量の不良債権の発生。日本を長期低迷に導いたバブル崩壊が、銀行を業界再編の嵐で包み込んだのです。
東大生の選択は必ずしも正しいとは言えません。
(3) 1927年の東大法科に人気の内務省
ここで一気に時代を遡って、戦前の東大法学部を見てみましょう。当時の東大法学部は今より社会的地位が高いエリート学生でした。さて、1927年の東大法学部の就職先ランキングは
1位:内務省(38)
2位:鉄道省(12)
3位:逓信省(8)、台湾総督府(8)、三井物産(8)
6位:大蔵省(7)
7位:朝鮮総督府(6)
8位:外務省、商工省、文部省(5)
(出典:東京大学史紀要)
になります。東大法学部が官僚養成機関として機能しています。その中でも、ダントツの人気を誇るのが内務省です。内務省は地方団体に対する監督権をもち、他省庁に対しても強大な影響力を持ちました。府県知事は中央から派遣された内務官僚が務め、内務省は「官庁の中の官庁」、「官僚勢力の総本山」、「官僚の本拠」などと呼ばれる最有力官庁でした。
(4) 内務省と敗戦
しかし、内務省は第二次世界大戦に敗れ、1947年、GHQによって解体されます。内務官僚たちは自治省の幹部として生き残っていったようですが、名を奪われたのは事実です。
なお、民間企業で唯一ランクインしていた三井物産ですが、敗戦により外国貿易業務と在外資産を失い、財閥解体により200社余りの会社に解体されています。「三井の大合同」は1958年まで待たなくてはいけません。
1929年世界恐慌の前に第二次世界大戦と敗戦を予期するのは不可能ですが、100年前から東大生の選択は必ずしも正しいとは言えないのです。
結論
東大生と言えども、将来を見通せているわけではありません。今人気の業界が今後も人気とは限りませんし、今人気でない業界が今後もそのままとは限りません。
将来は不確実であり、今の人気に立脚した近視眼的な意思決定をすると、期待外れな結果になりうります。自分なりの未来シナリオを考えて、将来の不確実性を加味して業界選びする姿勢が必要でしょう。
付録:未来シナリオの分岐点
完全に私見ですが、未来シナリオを考える上での分岐点としては次が挙げられると思います。
【技術進歩に起因する現象】
・生成系AIの高機能化と知的労働者の代替
・人工知能に繋がったロボットの社会進出と肉体労働者の代替
・機械翻訳の高度化と外国企業の日本進出
・自動運転車の普及と国内旅行の活性化
・宇宙開発による鉱物資源獲得
【グローバルに起因する現象】
・原発を含むグリーン・エネルギー化と公共料金値上げ
・中国系大企業の日本での競争力増大
・温暖化による東京の居住環境悪化
・熱帯由来の新興感染症の世界的流行
・食糧危機に備え、農業投資拡大
【日本政府に起因する現象】
・財政破綻による民間部門の保有資産毀損、深刻な景気停滞
・社会保障大幅カット
・コンパクトシティ化による居住地の制限
・移民の受け入れによる文化変容
・欧米的な事実婚の普及と婚外子の増大
さいごに
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執筆者と免責事項
書き手=東大支部24卒メンター
※記事は執筆者の個人的見解であり、エンカレの公式見解を示すものではありません。